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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)7098号 判決 1968年3月12日

主文

被告は原告に対し金一、三七六、八二五円及びこれに対する昭和四一年八月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告が金三〇〇、〇〇〇円の担保を供したときは仮に執行できる。

事実

(請求の趣旨及びこれに対する答弁)

原告訴訟代理人は主文同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

(第一次的請求の原因)

一、被告は株式会社天宝堂(以下天宝堂という)の代表取締役に就任し、現在に至つている。

二、被告は代表取締役でありながら、業務執行を全般的に娘婿の伊藤智に代行させていた。ところが右伊藤は最近同人が経営する千葉産業株式会社を倒産させ、その際は背信又は横領の疑いがあるとの噂も流れた人物である。また伊藤は天宝堂から千葉産業に対して、七、〇〇〇万円を貸付け、こげつかせた。その結果天宝堂は昭和四一年七月一〇日に不渡手形を出し直後銀行取引停止処分を受けるに至つたが、伊藤及び被告はそれ以前から営業所の扉をとざし原告ら債権者から姿をかくしていた。

右被告の行為、すなわち、伊藤を使用人として用いたこと、伊藤に業務を委せきりにし監督を全く行わなかつたこと、及び天宝堂倒産前から姿をかくしたことは、代表取締役として会社に尽すべき忠実義務に著しく違反した行為であり、被告は代表取締役として、その職務を行うにつき悪意又は重大な過失があつた。

三、原告は天宝堂に対し、六〇秒コマーシヤルフイルム製作代等合計一、三七六、八二五円の債権を有していたが(うち一二五万円については約束手形を受領している)、被告の悪意又は重大な過失ある行為により天宝堂が倒産した結果、同会社から支払を受けることが不能になり右債権額相当の損害を蒙つた。

四、よつて原告は被告に対し、一、七三六、八二五円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四一年八月二〇日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による金員の支払を求める。

(第二次的請求の原因)

かりに右、商法第二六六条の三に基づく被告の責任が認められないとしても、天宝堂の使用人である伊藤智が前記のような放漫杜撰な職務執行を行つたことにより、原告は前記損害を蒙つたが、被告は天宝堂の代表取締役として使用者たる会社に代つてその事業を監督する者であるから、原告に対し、損害賠償責任がある。

(第一次的請求原因に対する答弁)

第一項は否認する。第二項中、天宝堂の経営を被告の娘婿の伊藤智が行つていたこと、同人が経営する千葉産業株式会社が倒産したこと、及び天宝堂が昭和四一年七月一〇日に不渡手形を出し銀行取引停止処分を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。第三項中、原告が天宝堂に対し、一、七三六、八二五円の債権を有していること、天宝堂が倒産した結果原告が右債権額相当の損害を蒙つたことは不知、その余は否認する。被告は天宝堂の代表取締役に就任したことはない。すなわち登記簿上は被告が昭和四一年一月七日に代表取締役に就任したことになつているが、被告を取締役に選任すべき株主総会も、代表取締役に選任すべき取締役会も招集開催された事実はない。また取締役の第三者に対する責任はいわゆる間接損害の場合に限ると解すべきであるが、本件の場合会社に損害は発生していない。すなわち、原告が天宝堂に対して原告主張の債権を有するに至つた時点から天宝堂が不渡手形を出した時点までの間に伊藤の行為により会社の資産に特段の減少を来たした事実はなく、むしろ天宝堂の営業成績は右期間中急激に伸びていたが、資金繰りに不測の事態を生じたため倒産のやむなきに至つたものであるから、被告は責任を負わない。

(第二次的請求原因に対する答弁)

否認する。

(証拠)(省略)

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